田中水力株式会社のプロジェクトストーリーをご紹介します。

プロジェクトストーリー
プロジェクトストーリー
横向きが常識のケーシングを縦に!!発想を転換し、新エネ大賞会長賞を受賞
横向きが常識のケーシングを縦に!!発想を転換し、新エネ大賞会長賞を受賞

2016年の「新エネ大賞」において、当社の『立型インライン式フランシス水車の開発・完成』が、「平成27年度新エネルギー団会長賞」を受賞しました。

同賞は一般財団法人新エネルギー財団主催の賞であり、新エネルギーに関わる商品などを広く募集し、その中から優れた作品を表彰するものです。ここでは受賞製品の開発のきっかけや経緯をご紹介します。

常務取締役兼技術本部長(工学博士) 國分 清

落差のある地形を利用して小電力発電を
落差のある地形を利用して小電力発電を

山形県企業局天童量水所より、田中水力に水車の相談があったのは2014年のこと。「既存の水道施設の配管に発電用の水車を設置したい」と説明され、横型ベルト掛式インライン水車を希望されました。

そもそも量水所とは、各市町村へ送る広域水道水の計量や流量調節を行う施設のこと。天童量水所は村山広域水道西川浄水場から送られてくる水道水を天童市へ供給する施設で、高地にある浄水場から天童量水所までの落差を利用して、小水力発電を実施したいとお考えでした。

限られた設置スペースをどう解決するか
限られた設置スペースをどう解決するか

依頼を受けて現地調査をした当社の技術本部長・國分清は、はたと考え込みました。
量水所はごく小さな施設で、当然のことながら設置スペースが限られます。従来のベルト掛式はケーシングの真上に発電機が設置され、発電機分の据付スペースが不要なため、量水所にも設置できるとお客様は考えられたのでしょう。

しかし、ベルト掛式は年2回程度、消耗品であるベルトの交換が必要で、メンテナンスコストがかかることが難点です。このデメリットを克服するために直結方式インライン水車があるのですが、直結方式は内部で管路が90度に曲がる構造が特徴。ところが天童量水所には90度に曲がった配管の水車を設置するスペースはありません。

横型ベルト掛式インライン水車構造図
横型直結方式インライン水車構造図
技術者には発想の転換が必要

もちろん、お客さまにもこの内容を説明しましたが、現地は水の位置エネルギーを活かせる絶好のロケーション。お客さまは「どうしても小水力発電を導入したい」と熱意が衰える様子はありません。

「ベルトはなるべく使いたくない。かといって直結方式の設置スペースはない」――天童量水所の内部を頭に描き、水車の図面を見ながら、國分は考え続けました。

「問題に直面したとき、技術者には発想の転換が必要です。お客様はどこにいちばん困っていらっしゃるのか。もっとも優先すべき事項はなにか。それらを揺るがぬ道しるべにして、頭の中にいつも図面を描いていました」
考え続けるうちに、國分の頭にひらめくものがありました。打ち合わせの際、お客さまがふとおっしゃった言葉が脳裏に甦ったのです。
「この横に長い部分を縦にできればいいのに」

横のものを立てるという発想

そもそもベルト掛式も直結方式も、大きくは「横型」と呼ばれる水車です。これは水の流れに合わせてケーシングが横向きに設置されるため。据付の際、水車の中でもっとも大きなスペースを要するのも、横たわるように置かれたケーシングでした。

「それなら発電機を真上に残したまま、ケーシングを立ててみてはどうだろう? 」
さっそく図面を引いてみると、充分に実現可能なアイディアであることがわかりました。
「図面化する前は、頭の中に3Dの映像がグルグル回っている感覚です。2Dの図面に落としてみて初めて、できる!と実感するのです」

図面化してみると、横型ベルト掛式よりも約30%据付スペースを小さくできることが判明。新たな配管工事も不要で、既存の配管途中に設置できるため、大幅な経費節減が可能になりました。また、ガイドベーン操作機構と呼ばれる構造では横型インライン水車のものを活用するなど、従来品の簡素でコンパクト・低価格・低メンテナンス性の特徴を継承。立型構造のため、発電機の潤滑油などが下の水車に混入することが心配されましたが、これも軸封水部の水切の形状を工夫することで解決しました。

立型インライン水車構造図
立型インライン水車設置後写真
世界初の立型インライン水車が電気を創り出す!
世界初の立型インライン水車が電気を創り出す!

試作品が完成し、お客様に見ていただいたとき、世界初の立型インライン水車にとても喜ばれました。
開発者として気になるは、初号機のため性能実績を示せないこと。

しかし、それも現地試験で横型に劣らない性能が得られ、國分をはじめ開発チームはほっと胸をなでおろしました。
納品した立型インライン式水車は2016年1月に運転を開始。
一般家庭約76戸の年間消費電力量に当たる256MWhの電力を創り続けています。